1.
最初、少女は『せいぎのみかた』に憧れた。どこで見たのかは些細な問題では無いが、憧れるだけの何かが有ったのだろう。それから、少女はどうにかして自分でも『せいぎのみかた』になれないかどうかを考えた。まだ幼い少女ではあまり考える事はできなかったが、それでも少女なりに考えた事は正しかった。まだ正しかった。それは『せいぎのみかた』がやってきた事と出来る事を調べ、同じ事出来るようになる事だった。たまたま家に置いて有った物で軽い練習をしたりしながら。色んな事を調べながら。少女は『せいぎのみかた』を目指す事にしたのだ。憧れと希望をもって。
2.
月日は流れ少女は調べた事を全てまとめた。当時記憶力はそれほど良くなかったが、こまめにメモをしたりする事で少しずつ覚えていく事にした。少女はそうして『せいぎのみかた』へと近づく手段を手に入れたのだ。ただし、その道はとても遠く険しく、生半可な事では辿り着かないことがわかった。当然である、簡単な物には憧れない。憧れるわけがないのだから。少女は両親にその事を伝えた。反対はされたが、強引に押しきって一人出ていった。少女は冒険者へとなったのだ。
3.
少女が初めて受けた依頼は駆け出しが行うにはあまりにも難しい依頼だった。その依頼の難しさを少女はわからずに受けたのだ。難しさを見間違えれば生きて帰る事すら困難になる。結果、少女は死の一歩手前を味わう事になる。だが、それを救ったのは『せいぎのみかた』と憧れた同じ冒険者だったのだ。少女を救った冒険者はその依頼の報酬と見つけた物を全て少女に渡して、去って行った。『せいぎのみかた』としてその目にうつった少女にとって、その出来事は一生涯忘れることができないだろう事だ。その時に手に入れた報酬は全て取っておいて有る。その憧れの横に立った時に、笑顔で渡そうと決めたのだ。見つけた物は、古ぼけた五冊の本。そして、一本の剣。これで強くなれと言われた気がしたのだ。かくして、剣を携えて頑張る冒険者が生まれたのだ。
4.
それから少女は多くの依頼を短期間でこなしていった。危険性や報酬、それを全て覚えて。出来る依頼を選んでこなせるほどになった。駆け出しから一般へ。その間、常に一本の剣を振るってきた。手入れの仕方は知らなかったが、その剣は折れも欠けもせずに力を貸し続けた。依頼の合間、休む時間とは別に。古ぼけた本も読んでいた。少しずつ、少しずつではあるが。読めない文字も多かったし理解できない内容も多かったが、それでも少しずつ読んでいった。時に図書館へ向かい文字を学び、そして読み進め。長時間かけてその本を全て読んでいった。
5.
少女はついに『せいぎのみかた』と共に冒険をすることが出来るようになった。とはいっても、正式に肩を並べる形ではなく、少女からの依頼として『せいぎのみかた』と共に行動する事になったからである。とはいえ、その姿を間近に見る事がいつでも出来るようになった少女は、毎日その事を喜んでいた。行動の一つ一つをじっと見て。自分でもできるだろうかとずっと行動で学んでいた。その時から、本人も自覚しない才能に開花する。すなわち、『実際に見た事を真似する』という才能と。『自分の興味を持って見た事を忘れない』という才能。それは、人としてでも特異な才能であった。だが、その才能が少女を『せいぎのみかた』に近づけたのだろう。
6.
少女が共に行動しながらも、五つの本を読み続けていた。最後の一冊を読み進めていた。内容は難しく理解しがたく共感もしにくい内容だったが、少女の生きがいになっていたのかもしれない。何せ知らない事がたくさん書かれていた。少女はその本を大事に持って、内容を覚えるほどに。けれど、その本がその存在を誇示するほどになるとはその当時誰も知らなかった。最後の本の表紙は『Alice the Twilight Books』と書かれていた。
7.
悲劇が起きた。
8.
それはあまりにも悲しい現実。『せいぎのみかた』の筆頭である一人が、魔物の手によって命を落とした。少女はその現実を見た時、気を失うほどのショックを受けた。そんなことが有ってはいけない認めたくない現実、『せいぎのみかた』の死。死体は綺麗な形で残っていたが、それゆえにその現実が少女にはあまりに重すぎた。憧れの死は生きる目的の死。少女に癒えない傷を負わせた。
9.
――少女はこの時から、道を間違える事になる。
10.
その日。少女は最後の本を読みきった。けれど、五つの本には人の生き返らせ方など書いていなかった。死は受け入れる物で有り、死は誰にでも遅かれ早かれ訪れる物。それでも少女は認めたくなかった。だから、願ったのだ。「自分の全てでその死を覆す」と。そしてその方法を示したのは。その五つの本だった。五つの本はその方法を提示したのだ。奇跡の起こし方を。それは人間には到底成し得ぬ、遥か遠く遥か高い頂の偉業。異形の力と人間の力、そしてそれ以外の数多くの物を使わねばならぬほどの行為。その方法を全て聞いて少女は――
11.
12.
少女は『せいぎのみかた』から離れた。自分の役割を果たすため、その力を手に入れるために。多くの力をその手につかむために。
13.
巨人が。妖精が。妖魔が。魔族が。植物が。生物が。機械が。人間が。姿を消した。跡形もなく消し去られた。そうして、次の標的になったのは。神だった。
14.
この物語の終わりは。
『せいぎのみかた』が『あくのはな』を殺害したことで。
みんなが幸せになれるエンディングを迎えた。